
企業の情報システムは、ビジネスの成長とともに複雑化し、時代に合わなくなっていくケースが少なくありません。導入から10年、20年と経過したシステムは、技術的な陳腐化だけでなく、保守コストの増大やセキュリティリスクといった深刻な問題を引き起こします。
こうした古い技術や仕組みで構築されたシステムは「レガシーシステム」と呼ばれ、多くの企業が抱える経営課題となっています。
本記事では、レガシーシステムの定義から具体例、企業にもたらすリスク、そして脱却方法まで、わかりやすく解説します。自社のシステム課題を整理し、今後の方針を検討する際の参考にしてください。
レガシーシステムとは?意味をわかりやすく解説
レガシーシステム(Legacy System)とは、古い技術や仕組みで構築され、現在の技術標準や業務要件に適合しなくなったシステムを指します。「Legacy」は「遺産」を意味する英語ですが、IT用語では「時代遅れの技術で作られた資産」というニュアンスで使われます。
経済産業省の「DXレポート」では、レガシーシステムを「技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化等の問題があり、その結果として経営・事業戦略上の足かせとなっているシステム」と定義しています。単に古いというだけでなく、企業の成長や変革を阻害している点が問題です。
現在も業務を支えているシステムであるがゆえに、簡単には停止できず、かといって維持し続けるにはコストとリスクが増大するという、企業を悩ませるジレンマを抱えています。
レガシーシステムの具体例
レガシーシステムは、業種や企業規模を問わず存在します。一見すると正常に稼働しているように見えても、内部では深刻な技術的負債を抱えているケースが少なくありません。
自社のシステムがレガシー化しているかを判断するには、具体的な特徴を知ることが重要です。ここでは、代表的なレガシーシステムの形態を4つ紹介します。
- メインフレーム・オフコンで稼働する基幹システム
- カスタマイズを重ねたパッケージ
- レガシー言語で作られた業務アプリ
- ベンダーサポートが終了したOS・ミドルウェア依存のシステム
メインフレーム・オフコンで稼働する基幹システム
1980年代から1990年代に導入されたメインフレームやオフィスコンピュータ(オフコン)で稼働する基幹システムは、典型的なレガシーシステムです。これらのシステムは高い安定性を誇る一方、ハードウェアの調達が困難になり、保守コストが年々増大しています。
メインフレームは金融機関や大企業の基幹システムとして長年使用されてきました。しかし、専用ハードウェアのため拡張性に乏しく、クラウド化やモバイル対応といった現代的な要求に応えることが困難です。
また、これらのシステムを扱える技術者も減少しており、属人化が進んでいます。保守要員の高齢化により、数年後には誰も触れなくなるリスクを抱える企業も少なくありません。
カスタマイズを重ねたパッケージ
市販のパッケージソフトウェアを導入後、業務に合わせて繰り返しカスタマイズした結果、複雑化・肥大化したシステムもレガシー化の典型例です。初期のカスタマイズから10年、20年と経過する中で、誰も全体像を把握できないブラックボックスと化しています。
たとえば、会計システムや販売管理システムに対して、各部門からの要望に応じて機能追加を重ねた結果、元のパッケージとは似ても似つかない独自システムになっているケースがあります。こうなると、パッケージのバージョンアップも困難になるでしょう。
カスタマイズの履歴が適切に文書化されていない場合、変更の影響範囲が見えず、新たな改修に膨大な時間とコストがかかります。
レガシー言語で作られた業務アプリ
COBOLやFORTRAN、古いバージョンのVisual Basicなど、現在ではほとんど使われなくなったプログラミング言語で開発された業務アプリケーションもレガシーシステムに含まれます。これらの言語を扱える技術者は年々減少しており、新規の機能追加や保守が極めて困難です。
COBOLは特に金融機関や保険会社の基幹システムで多用されてきました。現在も稼働している膨大な行数のCOBOLプログラムが存在しますが、若手エンジニアでCOBOLを学ぶ人はほとんどいません。
こうした言語で作られたシステムは、技術者の確保が難しいだけでなく、開発環境やツールも古く、効率的な開発が望めません。結果として、小さな変更にも大きなコストと時間がかかる状況に陥ります。
ベンダーサポートが終了したOS・ミドルウェア依存のシステム
Windows XPやWindows Server 2003など、既にメーカーサポートが終了したOSやミドルウェア上で稼働するシステムも深刻なレガシーシステムです。サポート終了後はセキュリティパッチが提供されないため、脆弱性を抱えたまま運用を続けることになります。
たとえば、特定バージョンのデータベースソフトウェアに依存したシステムで、そのバージョンのサポートが終了している場合、新たな脆弱性が発見されても対応できません。外部からの攻撃リスクが高まる一方です。
また、サポート終了した製品は、新しいハードウェアでの動作保証もありません。ハードウェア障害が発生した際の交換部品調達も困難になり、システム停止の長期化リスクを抱えています。
レガシーシステムが企業にもたらすリスク
レガシーシステムは、単に「古い」というだけでなく、企業経営に具体的なリスクをもたらします。短期的なコスト増加から、長期的な競争力の低下まで、その影響は多岐にわたります。
ここでは、レガシーシステムが企業にもたらす5つの主要なリスクを解説します。
- 保守・運用コストの増大
- 障害・セキュリティリスク
- ブラックボックス化・属人化
- DX・新規ビジネスの足枷になる
- 法改正や業務変更への遅れ
保守・運用コストの増大
レガシーシステムは、年数が経過するほど保守・運用コストが増大するのが大きな問題です。古い技術を扱える技術者は希少であり、人件費が高騰する傾向にあります。
また、専用ハードウェアの保守契約料も年々上昇します。メーカーがハードウェアの生産を終了している場合、交換部品の調達にも高額な費用がかかるでしょう。場合によっては、中古市場から部品を探すといった非効率な対応を強いられます。
さらに、小さな機能変更にも膨大な工数がかかります。システムが複雑化しているため、影響範囲の調査だけで数週間を要し、実際の改修にさらに時間がかかるケースも珍しくありません。結果として、IT予算の大半が既存システムの維持に費やされ、新規投資に回す余裕がなくなります。
障害・セキュリティリスク
ハードウェアの老朽化により、予期せぬ障害の発生リスクが高まります。部品の劣化や故障により、突然システムが停止する可能性があり、事業継続に深刻な影響を及ぼします。
また、セキュリティリスクも深刻です。サポートが終了したOSやミドルウェアでは、新たに発見された脆弱性に対するパッチが提供されません。そのため、サイバー攻撃の標的になりやすく、情報漏洩やランサムウェア被害のリスクが常に存在します。
また、災害時のバックアップやディザスタリカバリ体制も、古いシステムでは構築が困難です。クラウド環境への移行や仮想化といった現代的な冗長化手法が使えないため、障害からの復旧に長時間を要する可能性があるでしょう。
ブラックボックス化・属人化
長年の運用とカスタマイズの積み重ねにより、システムの全体像や詳細仕様を把握している人が誰もいないという状態に陥ります。運用のためのドキュメントが整備されていないケースも多く、特定の担当者だけが「何となく」システムを維持している状況です。
こうした属人化は、担当者の退職や異動により、一気に危機的状況を招きます。新たに担当になった人は、手探りでシステムを理解しなければならず、トラブル対応にも時間がかかるでしょう。
ブラックボックス化したシステムでは、変更の影響範囲を予測できません。そのため、小さな修正でも予期せぬ不具合を引き起こすリスクがあり、結果として「触らない方が安全」という保守的な判断につながります。
DX・新規ビジネスの足枷になる
レガシーシステムは、デジタルトランスフォーメーション(DX)や新規ビジネスの展開を阻害する最大の要因です。APIによる外部システム連携、リアルタイムデータ分析、モバイル対応といった現代的な要求に対応できません。
たとえば、ECサイトと基幹システムを連携させようとしても、レガシーシステムがリアルタイム連携に対応していない場合、在庫情報の同期に時間がかかり、顧客体験を損ないます。また、データ分析ツールと連携してマーケティング施策を展開しようにも、データの抽出が困難という状況も発生するでしょう。
競合他社がクラウドやAIを活用した新サービスを次々と投入する中、レガシーシステムに縛られた企業は市場での競争力を失っていきます。
法改正や業務変更への遅れ
法律や制度の変更に迅速に対応できないことも、レガシーシステムの大きな問題です。たとえば、消費税率変更やインボイス制度導入といった税制改正に対し、システム改修が間に合わないリスクがあります。
改正電子帳簿保存法への対応も、古いシステムでは困難です。電子データの保存要件を満たすためには大規模な改修が必要になり、コストと時間がかかります。
また、業務プロセスの変更にも柔軟に対応できません。働き方改革やテレワーク推進といった組織変革を進めようとしても、システムがオンプレミス環境に固定されており、社外からのアクセスができないケースもあるでしょう。結果として、業務改善の足かせとなります。
早期のレガシーシステムからの脱却がビジネス機会を創出する
レガシーシステムからの脱却は、単なるリスク回避ではなく、新たなビジネス機会の創出につながります。経済産業省の「DXレポート」でも、2025年までにレガシーシステムを刷新しないと、年間最大12兆円の経済損失が生じる「2025年の崖」の可能性について警鐘を鳴らしています。
システム刷新により、クラウド活用によるコスト削減、データ活用による新規ビジネス創出、業務効率化による生産性向上など、多面的なメリットが得られます。早期に着手した企業ほど、競合に対する優位性を確立できるでしょう。
脱却の方法としては、全面刷新(リプレース)、段階的移行(マイグレーション)、部分的なモダナイゼーションなど、複数のアプローチがあります。自社の状況や予算、業務への影響を考慮して、最適な手法を選択することが重要です。
詳しい脱却方法については、レガシーシステムからの脱却の重要性とは?手順と成功のポイントを解説のページに記載していますので、併せてご参照ください。
まとめ
レガシーシステムとは、古い技術や仕組みで構築され、現在の技術標準や業務要件に適合しなくなったシステムを指します。メインフレームやオフコン、カスタマイズを重ねたパッケージ、レガシー言語で作られた業務アプリ、サポート終了したOS依存のシステムなど、さまざまな形態が存在します。
レガシーシステムが企業にもたらすリスクは深刻です。保守・運用コストの増大、障害・セキュリティリスク、ブラックボックス化・属人化により、日常業務に支障をきたすだけでなく、DXや新規ビジネス展開の足枷となります。また、法改正や業務変更への対応遅れは、コンプライアンス上の問題にも発展するでしょう。
早期のレガシーシステムからの脱却は、リスク回避だけでなく、新たなビジネス機会の創出につながります。自社のシステム状況を正確に把握し、段階的な刷新計画を立てることで、デジタル時代の競争力を確保できます。まずは現状分析から始め、専門家の支援も活用しながら、着実に脱却を進めていくことが重要です。