
企業のIT基盤を支えてきた既存システムが、いつしか保守コストの増大やDX推進の妨げとなる「レガシーシステム」と化している企業は少なくありません。経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」が目前に迫る中、多くの企業がレガシーシステムからの脱却を経営課題として認識し始めています。
本記事では、レガシーシステムから脱却すべき理由、具体的な移行ステップ、そして刷新を成功させるためのポイントを詳しく解説します。システム刷新を検討中の経営層やIT部門の方々に、実践的な指針を提供できるでしょう。
レガシーシステムから脱却すべき理由
レガシーシステムを放置することは、企業経営に深刻な影響を及ぼします。表面的には稼働しているように見えても、水面下では複数の課題が進行している可能性があります。ここでは、レガシーシステムからの脱却が急務である4つの理由を解説します。
- 保守・運用コストが年々増加している
- 障害やセキュリティリスクの増大
- DXや新規ビジネスの足枷になる
- 人材やノウハウの属人化が限界に近づいている
保守・運用コストが年々増加している
レガシーシステムの最も顕著な課題は、保守・運用コストの増加傾向です。古いシステムは特殊な技術やプラットフォームで構築されており、対応できる技術者が年々減少しています。そのため、限られた専門人材への依存度が高まり、人件費が上昇する構造が生まれているのが実情です。
また、ハードウェアの老朽化により、部品調達や保守契約の費用も増大します。メーカーのサポート終了後は、高額な延長保守契約を結ぶか、独自に保守体制を構築せざるを得ません。さらに、システムの複雑化により、小さな変更でも影響範囲の調査に多大な工数を要するようになるでしょう。
障害やセキュリティリスクの増大
システムの老朽化は、障害発生率の上昇とセキュリティリスクの増大を招きます。ハードウェアの経年劣化により、突発的な障害が発生しやすくなるでしょう。とくに基幹系システムでの障害は、業務全体の停止につながる深刻な事態を引き起こします。
セキュリティ面では、サポート終了したOSやミドルウェアに対する脆弱性対策が実施されません。これにより、サイバー攻撃の標的になりやすく、データ漏洩や不正アクセスのリスクが高まります。また、最新のセキュリティ要件に対応できないため、コンプライアンス違反の懸念も生じるでしょう。
DXや新規ビジネスの足枷になる
デジタル技術を活用した業務変革や新規ビジネスの創出において、レガシーシステムは大きな障壁となります。柔軟性に欠けるシステムアーキテクチャでは、API連携やクラウドサービスとの統合が困難です。そのため、最新のデジタルツールを導入しても、既存システムとの接続に多大なコストと時間を要するでしょう。
さらに、市場変化への対応スピードが低下します。新サービスのリリースやビジネスモデルの変更に数ヶ月から数年を要する状況では、競合他社に後れを取るでしょう。とくにデジタルネイティブ企業との競争において、この機動力の差は決定的な弱点となります。
人材やノウハウの属人化が限界に近づいている
レガシーシステムを支える技術者の高齢化と、次世代への技術継承の失敗は深刻な問題です。COBOLなど古い言語やメインフレーム技術を扱える人材は年々減少しており、新規の採用も困難な状況が続いています。現在システムを保守している担当者が退職すれば、対応できる人材がいなくなるリスクがあります。
また、長年の改修によりシステムの構造が複雑化し、全体像を把握している人材が限られています。仕様書やドキュメントが整備されていない「暗黙知」の状態では、トラブル発生時の対応が特定の担当者に依存してしまうでしょう。この属人化は、担当者の異動や退職時に大きなリスクとなります。
レガシーシステムから脱却するステップ
レガシーシステムからの脱却は、綿密な計画と段階的な実行が成功の鍵となります。一度にすべてを刷新するのではなく、現状把握から優先順位付け、移行計画の策定まで、体系的なアプローチが求められます。
ここでは、多くの企業で実践されている5つのステップを紹介します。各ステップを丁寧に実施することで、リスクを最小化しながら確実な移行を実現できるでしょう。
- 現状システムの棚卸しと課題・リスクの可視化
- あるべき業務フローとシステム像の設計
- 対象システムの選定
- 移行スコープ・優先順位の決定
- ロードマップ作成と移行プロジェクトの推進体制の構築
現状システムの棚卸しと課題・リスクの可視化
脱却プロジェクトの第一歩は、現状システムの全容を正確に把握することです。稼働中のシステムすべてを洗い出し、利用技術、保守状況、利用部門、データフローなどを詳細に記録します。この棚卸し作業により、想定外のシステムや連携関係が発見されることも少なくありません。
次に、各システムの課題とリスクを定量的・定性的に評価します。保守コスト、障害発生頻度、技術的負債の大きさ、ビジネスへの影響度などを数値化し、優先順位付けの基礎データとします。また、技術者へのヒアリングを通じて、ドキュメント化されていない暗黙知やリスクも洗い出すことが重要です。
現状把握の精度が、その後の移行計画の品質を大きく左右します。 時間をかけても、この段階を丁寧に実施することが成功への近道です。
あるべき業務フローとシステム像の設計
現状分析を踏まえて、目指すべき業務プロセスとシステム構成を設計します。単に既存システムを新しい技術で置き換えるのではなく、業務フロー自体の見直しも並行して実施することが重要です。非効率な業務プロセスをそのままシステム化しても、真の改善にはつながりません。
理想的なシステム像を描く際は、将来の拡張性も考慮します。マイクロサービスアーキテクチャやクラウドネイティブな設計により、新規ビジネスへの対応力を高められるでしょう。また、API連携を前提とした設計により、外部サービスとの統合も容易になります。
対象システムの選定
すべてのシステムを一度に刷新することは、リスクとコストの観点から現実的ではありません。そのため、優先的に脱却すべきシステムを選定する必要があります。選定基準には、ビジネスへの影響度、技術的リスク、保守コスト、依存関係の複雑さなどが含まれます。
一般的には、以下のような優先順位が推奨されます。まず、技術的リスクが高く、障害時の影響が大きいシステムから着手します。次に、DX推進の足枷となっているシステムを対象とすることで、早期に事業価値を生み出せるでしょう。一方、依存関係が複雑なコアシステムは、周辺システムの刷新後に着手する戦略も有効です。
移行スコープ・優先順位の決定
対象システムが決まったら、移行の範囲と順序を詳細に決定します。システム全体を一度に移行するのか、機能単位で段階的に移行するのかを判断する必要があります。段階的移行は、リスク分散とノウハウ蓄積の観点で優れていますが、旧新システムの並行運用期間が長くなる欠点もあるでしょう。
優先順位の決定では、ビジネス価値と技術的実現性のバランスを考慮します。高い価値を早期に実現できる機能から着手することで、プロジェクトの推進力を維持できます。一方で、技術的な基盤整備が必要な場合は、それを優先する判断も必要です。
ロードマップ作成と移行プロジェクトの推進体制の構築
移行計画を実行可能なロードマップに落とし込みます。短期(1年以内)、中期(2-3年)、長期(3年以上)の時間軸で、システム刷新のマイルストーンを設定します。各フェーズでの成果物、リソース配分、予算、リスクを明確にし、経営層の承認を得ることが重要です。
推進体制の構築では、経営層をスポンサーとする全社横断的なプロジェクト組織を立ち上げます。IT部門だけでなく、業務部門からもメンバーを選出し、業務とシステムの両面から移行を推進する体制が求められるでしょう。また、外部パートナーとの役割分担も明確にし、責任の所在を曖昧にしないことが重要です。
さらに、プロジェクトガバナンスの仕組みも整備します。定期的な進捗報告、課題管理、意思決定プロセスを確立し、問題の早期発見と対処を可能にします。とくに大規模な移行プロジェクトでは、ステアリングコミッティを設置し、経営判断が必要な局面で迅速に意思決定できる体制を構築することが成功の鍵となります。
レガシーシステムを刷新する際のポイント
レガシーシステムの刷新は、単なる技術的プロジェクトではありません。経営戦略、業務改革、組織変革を伴う複合的な取り組みです。成功率を高めるためには、技術面だけでなく、プロジェクトマネジメントやステークホルダー管理の観点も重要になります。
ここでは、多くの企業の成功事例と失敗事例から導き出された5つの重要なポイントを解説します。これらを意識することで、移行プロジェクトのリスクを大幅に低減できるでしょう。
- 「技術」ではなく「経営・業務課題」から目的を定義する
- 刷新パターン(リホスト・リプレース・リライト)を比較検討する
- データ移行と周辺システムの連携を軽視しない
- 並行稼働・本番切り替え・教育までを計画に含める
- 自社だけで抱え込まず、パートナー選定も重視する
「技術」ではなく「経営・業務課題」から目的を定義する
システム刷新の目的を技術的な観点だけで定義することは、プロジェクトを失敗に導く最大の要因です。「古いシステムを新しくする」という発想ではなく、「どのような経営課題を解決するか」「どのようなビジネス価値を生み出すか」から出発する必要があります。
経営課題の例としては、市場投入スピードの向上、顧客体験の改善、コスト構造の最適化、新規事業への参入などが挙げられます。これらの課題解決にシステム刷新がどう寄与するかを明確にすることで、プロジェクトの方向性が定まります。また、経営層の理解と支援も得やすくなるでしょう。
さらに、業務部門との対話を通じて、現場が抱える課題も吸い上げます。システムの使いにくさ、データの二重入力、部門間の情報連携の不足など、日常業務のペインポイントを解消することも重要な目的です。技術刷新と業務改善を同時に実現することで、プロジェクトの価値を最大化できます。
刷新パターン(リホスト・リプレース・リライト)を比較検討する
レガシーシステムの刷新には、主に3つのアプローチがあります。それぞれにメリットとデメリットがあり、システムの特性や制約条件に応じて最適な選択が異なります。
リホストは、既存システムをほぼそのまま新しいインフラに移行する方法です。アプリケーションロジックは変更せず、ハードウェアやOSのみを更新します。移行期間が短く、リスクも比較的低い反面、業務プロセスの改善機会は限定的です。クラウドへのリフト&シフトもこのアプローチに含まれるでしょう。
リプレースは、既存システムと同等の機能を持つパッケージソフトやSaaSで置き換える方法です。開発期間とコストを抑えられ、最新のベストプラクティスを取り入れられます。ただし、自社業務をパッケージに合わせる必要があり、カスタマイズが過度になるとかえってコスト増を招く懸念があります。
リライトは、既存システムをゼロから再構築する方法です。最新技術の採用や業務プロセスの抜本的改革が可能ですが、期間とコストが最も大きくなります。技術的負債を完全に解消できる一方、仕様の再定義や要件定義に多大な工数を要するでしょう。
データ移行と周辺システムの連携を軽視しない
システム刷新において、データ移行は最も困難で見落とされがちな要素です。長年蓄積されたデータには、不整合、重複、欠損などの品質問題が含まれています。新システムへの移行前に、データクレンジングとマスタデータの統合を実施する必要があるでしょう。
データ移行計画では、移行対象データの範囲、クレンジング手順、変換ルール、検証方法を明確にします。とくに基幹系システムでは、データの完全性と整合性が業務継続の生命線です。本番移行前に複数回のリハーサルを実施し、移行手順とロールバック手順を検証することが重要です。
また、周辺システムとの連携も見落としてはなりません。対象システムが他のシステムとデータ連携している場合、インターフェースの変更が必要になります。連携先システムの改修スケジュールや、移行期間中の暫定的な連携方法も計画に含める必要があるでしょう。
並行稼働・本番切り替え・教育までを計画に含める
新システムの開発完了は、プロジェクトのゴールではありません。本番稼働までには、並行稼働期間、切り替え作業、ユーザー教育など、重要なステップが残っています。これらを軽視すると、本番稼働後にトラブルが頻発し、業務に深刻な影響を及ぼす恐れがあります。
並行稼働では、旧システムと新システムを同時に運用し、結果を比較検証します。この期間にデータの整合性を確認し、新システムの動作を実業務で検証することで、本番切り替え時のリスクを低減できるでしょう。並行稼働の期間は、システムの規模や複雑さに応じて数週間から数ヶ月を要することもあります。
本番切り替えでは、詳細な切り替え手順書とロールバック計画を準備します。切り替え作業のタイミング、データ移行の最終実行、システム停止時間の最小化など、綿密な計画が求められます。また、切り替え後の監視体制を強化し、問題の早期発見と対処ができる体制を整えることも重要です。
自社だけで抱え込まず、パートナー選定も重視する
レガシーシステムの刷新は、自社のIT部門だけで完遂できるプロジェクトではありません。専門的な知識と経験を持つ外部パートナーの支援が、成功率を大きく高めます。ただし、パートナー選定を誤ると、かえってプロジェクトを失敗に導く要因となるため、慎重な選定が必要です。
パートナー選定では、単に技術力だけでなく、業界知識、プロジェクトマネジメント能力、過去の実績を総合的に評価します。とくに同業種でのレガシーシステム刷新の経験があるパートナーは、業務理解とノウハウの面で大きなアドバンテージを持つでしょう。また、長期的な保守・運用まで見据えた関係構築ができるパートナーを選ぶことも重要です。
さらに、パートナーに丸投げするのではなく、自社も主体的にプロジェクトに関与する姿勢が求められます。要件定義、設計レビュー、テストなど、重要な局面では自社の業務知識を活かした積極的な参画が必要です。パートナーとの適切な役割分担により、自社にもノウハウが蓄積され、将来の自走力が高まります。
まとめ
レガシーシステムからの脱却は、多くの企業にとって避けられない経営課題です。保守コストの増大、セキュリティリスクの高まり、DX推進の阻害要因といった問題を放置すれば、企業の競争力は確実に低下します。一方で、計画的な移行により、業務効率化と新規ビジネスの創出を同時に実現できる機会でもあります。
成功の鍵は、現状の正確な把握、経営・業務課題を起点とした目的設定、適切な刷新パターンの選択、そして綿密な移行計画の策定にあります。データ移行や周辺連携、並行稼働、ユーザー教育といった、見落としがちな要素にも十分なリソースを配分することが重要です。
また、自社だけで抱え込まず、信頼できるパートナーとの協働も成功率を高める重要な要素となります。レガシーシステムの刷新は長期戦ですが、段階的なアプローチと着実な実行により、確実に成果を生み出せるでしょう。