
企業の情報システム戦略において、基幹系システムのクラウド移行は大きな転換点となっています。従来はオンプレミス環境で運用されることが一般的だった基幹系システムですが、近年はクラウドへの移行を検討する企業が急増しています。しかし、企業の中核業務を支える基幹系システムの移行には、慎重な判断と計画が必要です。
クラウド移行には、コスト削減や柔軟な拡張性、災害対策の強化といった多くのメリットがある一方で、セキュリティやカスタマイズの制約、移行時のリスクといったデメリットも存在します。適切な判断をするためには、両面を正しく理解することが不可欠です。
本記事では、基幹系システムをクラウド移行する背景から、メリットとデメリット、移行時の注意点、そして具体的な移行手順まで詳しく解説します。クラウド移行を検討している企業の情報システム担当者や経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
基幹系システムをクラウド移行する背景とは
基幹系システムをクラウドへ移行する企業が増えている背景には、いくつかの重要な要因があります。まず、オンプレミス環境で運用してきたシステムの老朽化が深刻化していることが挙げられます。多くの企業では、10年以上前に構築したシステムをそのまま使い続けており、ハードウェアの保守期限切れやソフトウェアのサポート終了といった問題に直面しています。
老朽化したシステムを刷新する際、従来と同じようにオンプレミスで構築すると、高額な初期投資が必要です。サーバー機器の購入、データセンターの整備、システム構築費用など、数千万円から億単位の投資が必要になることも珍しくありません。これに対してクラウドサービスであれば、初期投資を大幅に抑えながら、最新の技術基盤を利用できます。
また、事業環境の急速な変化に対応するため、システムの柔軟性が求められるようになったことも大きな背景です。事業拡大に伴う処理量の増加や、新規事業の立ち上げ、グローバル展開など、ビジネスの変化にシステムが追随できなければ競争力を失います。クラウドであれば、必要に応じてリソースを柔軟に増減でき、スピーディーな事業展開を支えることができます。
さらに、働き方改革やテレワークの普及により、場所を選ばずに業務システムにアクセスできる環境が求められています。クラウド化することで、インターネット経由でどこからでも安全にシステムを利用でき、多様な働き方に対応できます。災害対策の観点からも、データを複数の拠点に分散保管できるクラウドの優位性が注目されています。これらの背景から、基幹系システムのクラウド移行は、企業にとって避けられない選択肢となりつつあります。
基幹系システムをクラウド移行する5つのメリット
基幹系システムをクラウドへ移行することで、企業は多くのメリットを享受できます。ここでは、特に重要な5つのメリットについて詳しく解説します。
- 初期投資を大幅に削減できる
- 運用保守の負担が軽減される
- 柔軟な拡張性とスケーラビリティを実現できる
- 災害対策と事業継続性が向上する
- 最新技術を常に活用できる
初期投資を大幅に削減できる
基幹系システムをクラウドへ移行する最大のメリットは、初期投資を大幅に削減できることです。オンプレミス環境でシステムを構築する場合、サーバー機器やストレージ、ネットワーク機器などのハードウェアを購入する必要があり、これだけで数百万円から数千万円の投資が必要になります。さらに、これらの機器を設置するためのデータセンターや電源設備、空調設備なども必要です。
クラウドサービスを利用すれば、これらのハードウェアを購入する必要がなくなります。サービス提供事業者が用意したインフラを利用する形になるため、利用料金は月額制や従量課金制となり、初期投資を最小限に抑えられます。たとえば、数千万円の初期投資が必要だったシステムが、月額数十万円の利用料で始められるケースも少なくありません。
また、システム構築にかかる時間も大幅に短縮できます。オンプレミスでは、機器の調達から設置、設定まで数か月かかることもありますが、クラウドであれば数週間で運用を開始できる場合もあります。この時間短縮は、ビジネス機会の損失を防ぐという意味でも大きな価値があります。
さらに、ハードウェアの減価償却や保守費用といった固定費も削減できます。クラウドの利用料は事業費として計上できるため、会計処理もシンプルになります。特に中小企業にとっては、大きな初期投資なしに最新のシステムを利用できることは、競争力強化の重要な武器となります。
運用保守の負担が軽減される
クラウド移行により、運用保守の負担が大幅に軽減されることも重要なメリットです。オンプレミス環境では、サーバーの監視、バックアップ、セキュリティパッチの適用、ハードウェアの故障対応など、日常的な運用業務に多くの人的リソースが必要でした。特に24時間365日の監視体制を維持するには、専門的なスキルを持つエンジニアを複数人配置する必要があります。
クラウドサービスでは、インフラの運用保守はサービス提供事業者が担当します。サーバーの監視、バックアップの実施、セキュリティ対策、障害対応などは、高度な専門知識を持つプロフェッショナルチームが24時間体制で行います。企業側は、これらの基盤部分の管理から解放され、業務アプリケーションの運用に注力できます。
また、システムのバージョンアップやセキュリティパッチの適用も、サービス提供事業者が自動的に行います。オンプレミス環境では、これらの作業を計画し、テストし、適用するために多くの時間と労力が必要でしたが、クラウドではこれが自動化されます。常に最新のセキュリティ対策が施された環境を維持できるため、安全性も向上します。
運用保守の負担軽減は、人件費の削減にもつながります。専任のシステム管理者を置く必要がなくなったり、少人数で運用できるようになったりすることで、人的コストを大幅に削減できます。削減できたリソースは、より戦略的な業務に振り向けることができ、企業の競争力強化に貢献します。
柔軟な拡張性とスケーラビリティを実現できる
クラウドの大きな強みは、柔軟な拡張性とスケーラビリティにあります。事業の成長に伴ってシステムの処理能力を増強する必要が生じた場合、オンプレミス環境では新たなサーバー機器を購入し、設置し、設定する必要があり、数か月の時間と多額のコストがかかります。また、一度機器を購入すると、後から縮小することは難しく、過剰投資のリスクもあります。
クラウドサービスでは、必要に応じてリソースを柔軟に増減できます。繁忙期にはサーバーの処理能力を増強し、閑散期には縮小することで、無駄なコストを抑えられます。この調整は管理画面から数分で完了し、即座に反映されるため臨機応変に対応可能です。従量課金制のサービスであれば、使った分だけ支払えばよいため、コスト最適化も実現できます。
また、新規事業の立ち上げや海外展開など、ビジネスの変化にも迅速に対応できます。たとえば、新しい地域でサービスを展開する際、クラウドであればその地域のデータセンターを利用することで、低遅延で高品質なサービスを提供できます。オンプレミスでは現地にデータセンターを構築する必要があり、時間とコストが膨大になりますが、クラウドなら数週間で展開可能です。
さらに、季節変動が大きい業種では、この柔軟性が特に重要です。たとえば、年末商戦や決算期など、特定の時期にシステム負荷が集中する場合、その期間だけリソースを増強し、終了後は元に戻すことができます。この柔軟性により、常に最適なシステム環境を維持できます。
災害対策と事業継続性が向上する
クラウド移行により、災害対策と事業継続性が大幅に向上します。オンプレミス環境では、地震や火災、水害などの災害によってデータセンターが被害を受けると、システムが停止し、データが失われるリスクがあります。災害対策として遠隔地にバックアップサイトを構築する企業もありますが、二重の設備投資が必要で、中小企業には負担が大きすぎます。
クラウドサービスでは、データが地理的に離れた複数のデータセンターに自動的に分散保管されます。一つのデータセンターが被災しても、他のデータセンターからサービスを継続できる仕組みが標準で提供されています。大手クラウド事業者は、世界中に数十か所のデータセンターを持ち、高度な冗長化構成を実現しています。
また、データのバックアップも自動的に取得され、複数世代が保管されます。万が一データが破損したり、誤って削除したりした場合でも、過去の時点に復元できます。オンプレミス環境ではバックアップの管理が煩雑でしたが、クラウドでは自動化され、確実性が高まります。
事業継続性の観点では、システムの復旧時間も大幅に短縮できます。災害時にオンプレミスのシステムを復旧させるには、機器の調達から設置まで数週間から数か月かかることもありますが、クラウドであれば別のデータセンターで即座にサービスを再開できます。この迅速な復旧能力は、企業の信頼性維持と顧客満足度向上に直結します。
最新技術を常に活用できる
クラウド移行により、最新技術を常に活用できることも大きなメリットです。オンプレミス環境では、一度システムを構築すると、そのハードウェアとソフトウェアの構成で数年間運用し続けることになります。この間に新しい技術が登場しても、すぐには取り入れられず、技術的な陳腐化が進みます。
クラウドサービスでは、サービス提供事業者が継続的にインフラを更新し、最新のハードウェアやソフトウェアを導入しています。利用者は、追加投資なしにこれらの最新技術の恩恵を受けられます。たとえば、処理速度の向上やストレージ容量の増加、新しいセキュリティ機能の追加などが、自動的に反映されます。
また、AIや機械学習、ビッグデータ分析といった先進技術も、クラウドサービスとして提供されています。これらの技術をオンプレミスで導入しようとすると、専門知識と高額な投資が必要ですが、クラウドであれば比較的容易に利用開始できます。たとえば、需要予測や在庫最適化にAIを活用する場合、クラウドの機械学習サービスを組み合わせることで、短期間で実現できます。
さらに、クラウドサービスは標準化されたプラットフォーム上で動作するため、他のシステムやサービスとの連携も容易です。オープンな標準規格に基づいた連携により、様々な業務アプリケーションを組み合わせて、最適なシステム環境を構築できます。この柔軟性は、デジタル化が進む現代のビジネス環境において、競争優位性の源泉となります。
基幹系システムをクラウド移行する3つのデメリット
基幹系システムのクラウド移行には多くのメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。ここでは、特に重要な3つのデメリットについて詳しく解説します。
- セキュリティとコンプライアンスの懸念
- カスタマイズの制約がある
- 移行時のリスクとコスト
セキュリティとコンプライアンスの懸念
クラウド移行における最大の懸念は、セキュリティとコンプライアンスの問題です。企業の基幹系システムには、顧客情報、財務情報、人事情報など、極めて機密性の高いデータが保管されています。これらのデータを外部のクラウド事業者に預けることに対して、経営層や情報セキュリティ担当者が不安を感じることは理解できます。
クラウド環境では、データが自社の管理下を離れ、インターネット経由でアクセスされます。適切なセキュリティ対策が施されていない場合、不正アクセスやデータ漏洩のリスクが高まります。また、クラウド事業者のデータセンターがどこにあり、どのような管理体制で運用されているのかが見えにくいという不透明性も不安材料です。
さらに、業種によっては厳格なコンプライアンス要件が課せられています。金融機関や医療機関では、個人情報保護法や業界固有の規制により、データの保管場所や管理方法に制限があります。クラウドサービスがこれらの要件を満たしているか、慎重に確認する必要があります。海外のクラウド事業者を利用する場合は、データが国外に保管されることもあり、法的なリスクも考慮しなければなりません。
これらの懸念に対しては、信頼できるクラウド事業者を選定し、適切なセキュリティ対策を実施することが重要です。ISO27001などの国際的なセキュリティ認証を取得している事業者を選ぶ、データの暗号化を徹底する、アクセス制御を厳格に管理するなど、多層的な対策が必要です。また、契約時にサービスレベル契約を明確にし、万が一の際の責任範囲を明文化しておくことも重要です。
カスタマイズの制約がある
クラウド移行のもうひとつのデメリットは、カスタマイズに制約があることです。オンプレミス環境では、自社の業務フローに完全に合わせてシステムを構築できます。独自の機能追加や画面レイアウトの変更、複雑な業務ロジックの実装など、自由度が高く、企業の競争優位性の源泉となる独自プロセスを維持できます。
一方、クラウドサービスは標準化されたパッケージとして提供されることが多く、大幅なカスタマイズには制約があります。サービス提供事業者が用意した標準機能の範囲内で利用することが基本となり、独自の要件を実現するには、業務プロセス側を標準に合わせる必要が生じます。これは、長年培ってきた業務の進め方を変えることを意味し、現場からの抵抗が生じる可能性があります。
カスタマイズが可能なクラウドサービスもありますが、カスタマイズを行うとコストが増加し、システムのアップデートが困難になります。サービス提供事業者が新しいバージョンをリリースしても、カスタマイズ部分との互換性を確保するための追加作業が必要になり、最新機能の恩恵を受けにくくなります。また、カスタマイズ部分の保守も自社で行う必要があり、運用負担が増えます。
この制約に対しては、クラウド移行を機に業務プロセスを見直し、標準化できる部分は標準機能を活用するという姿勢が重要です。本当に競争優位性の源泉となる部分だけをカスタマイズし、それ以外は標準プロセスに合わせることで、クラウドのメリットを最大限に活かせます。業務の見える化と標準化は、組織の効率化にもつながるため、前向きに捉えることが大切です。
移行時のリスクとコスト
基幹系システムのクラウド移行には、移行作業そのものにリスクとコストが伴います。稼働中の基幹系システムを新しいクラウド環境に移行する作業は、企業の業務を止めることなく慎重に進める必要があり、高度な技術力と綿密な計画が求められます。移行作業中にトラブルが発生すると、業務が停止し、大きな損失につながる恐れがあります。
特にデータ移行は最も慎重を要する作業です。長年蓄積されてきた膨大なデータを、オンプレミス環境からクラウド環境に移行する際、データの整合性を保ちながら確実に移行する必要があります。データ量が多い場合、移行に数週間かかることもあり、その間の業務への影響を最小限に抑える工夫が必要です。また、移行後にデータの不整合や欠落が発見されると、業務に深刻な影響を及ぼします。
移行にかかるコストも無視できません。移行計画の策定、システムの設計、データ移行作業、テスト、社員への研修など、さまざまな工程で専門家の支援が必要です。外部のコンサルタントやシステムインテグレーターに依頼する場合、数百万円から数千万円の費用がかかることもあります。また、移行期間中は既存システムとクラウドシステムの両方を並行稼働させる場合もあり、一時的にコストが増加します。
これらのリスクとコストに対しては、段階的な移行アプローチが有効です。いきなり全システムを移行するのではなく、まずは影響範囲の小さい業務システムから試験的に移行し、ノウハウを蓄積してから基幹系システムに取り組むことで、リスクを低減できます。また、経験豊富な移行パートナーを選定し、十分なテスト期間を確保することも、成功の鍵となります。
基幹系システムのクラウド移行における注意点
基幹系システムをクラウドへ移行する際には、いくつかの重要な注意点があります。ここでは、特に留意すべき3つのポイントについて解説します。
- 既存システムとの連携を確認する
- サービスレベル契約を明確にする
- ベンダーロックインのリスクを考慮する
既存システムとの連携を確認する
クラウド移行における重要な注意点は、既存システムとの連携を事前に十分確認することです。多くの企業では、基幹系システムだけでなく、部門ごとに構築された様々な業務システムが稼働しています。これらのシステムは互いにデータを連携しながら動作しており、一部をクラウドに移行することで、連携に支障が出る可能性があります。
たとえば、販売管理システムをクラウドに移行する場合、在庫管理システムや会計システムとのデータ連携が継続できるか確認が必要です。オンプレミス環境で構築されていた連携の仕組みが、クラウド環境でもそのまま機能するとは限りません。ネットワークの構成やセキュリティポリシーの違いにより、連携方法を見直す必要が生じることもあります。
また、既存システムの中には、古い技術で構築されたレガシーシステムも含まれている場合があります。これらのシステムは最新のクラウドサービスとの連携が困難な場合もあり、中間に連携用のシステムを構築する必要が生じることもあります。この追加投資を事前に見積もっておかないと、予算オーバーになるリスクがあります。
連携の確認は、移行計画の初期段階で行うべき重要な作業です。現在稼働しているすべてのシステムをリストアップし、それぞれとの連携方法を洗い出します。その上で、クラウド移行後も同じ連携が可能か、技術的な検証を行います。必要に応じて、連携方法の変更や新たな連携基盤の構築を計画に盛り込むことで、移行後の安定稼働を確保できます。
サービスレベル契約を明確にする
クラウド移行時には、サービス提供事業者とのサービスレベル契約を明確にすることが極めて重要です。基幹系システムは企業の業務を支える重要なインフラであり、システムが停止すると事業活動に深刻な影響を及ぼします。クラウドサービスの可用性や性能、障害時の対応について、契約で明確に取り決めておく必要があります。
サービスレベル契約では、システムの稼働率が保証されます。たとえば、99.9パーセントの稼働率保証であれば、年間で約8時間の停止が許容されることを意味します。基幹系システムでは、より高い稼働率が求められることも多く、99.99パーセントや99.999パーセントといった高水準の保証が必要になる場合もあります。当然、保証レベルが高くなるほど利用料金も高くなります。
また、障害発生時の対応時間や復旧時間についても明確にしておくべきです。障害の連絡を受けてから何時間以内に対応を開始するのか、何時間以内に復旧させるのか、具体的な数値で取り決めます。さらに、サービスレベルが守られなかった場合の補償内容についても確認が必要です。多くの場合、利用料金の一部返金という形で補償されますが、その条件や手続きを理解しておきましょう。
データのバックアップや保管期間についても、契約で明記されているべきです。バックアップはどのくらいの頻度で取得されるのか、何世代分が保管されるのか、データの復元にはどれくらいの時間がかかるのかなど、詳細を確認します。これらの条件が自社の要件を満たしていない場合は、オプションサービスの追加や、別のサービス提供事業者への変更を検討する必要があります。
ベンダーロックインのリスクを考慮する
クラウド移行における見落とされがちな注意点は、ベンダーロックインのリスクです。特定のクラウドサービス提供事業者のプラットフォームに深く依存したシステムを構築すると、将来的に別の事業者へ移行することが困難になります。サービスの品質が低下したり、料金が大幅に値上げされたりした場合でも、簡単には乗り換えられない状況に陥る可能性があります。
ベンダーロックインが発生する主な原因は、独自の技術や仕様に依存したシステム構築です。多くのクラウド事業者は、自社独自の便利な機能やサービスを提供しており、これらを活用することで開発効率が上がります。しかし、これらの独自機能に強く依存すると、他の事業者のプラットフォームでは動作しないシステムになってしまいます。
また、データの形式やデータベースの構造も、事業者によって異なる場合があります。大量のデータを蓄積した後に別の事業者へ移行しようとすると、データの変換や移行に膨大なコストと時間がかかります。契約期間中に蓄積されたデータをどのように取り出せるのか、どのような形式で提供されるのかを、契約前に確認しておくことが重要です。
ベンダーロックインのリスクを軽減するためには、できるだけ標準的な技術やオープンな規格を採用することが推奨されます。複数のクラウド事業者で共通して利用できる技術を選択することで、将来的な選択肢を残せます。また、マルチクラウド戦略として、重要度の低いシステムは別の事業者を利用するなど、リスクを分散させる方法も有効です。移行の柔軟性を確保することは、長期的な視点で見て重要な戦略となります。
クラウドに移行する際の手順
基幹系システムをクラウドへ移行する際には、計画的かつ段階的に進めることが成功の鍵です。ここでは、移行の基本的な手順を4つの段階に分けて解説します。
- 現状分析と移行計画を決める
- クラウドサービスの選定と設計
- データ移行とシステムテスト
- 本番稼働して運用を安定化させる
現状分析と移行計画を決める
クラウド移行の最初の段階は、現状分析と移行計画の策定です。現在稼働している基幹系システムの構成、利用状況、性能要件、セキュリティ要件などを詳細に調査します。どのようなハードウェアで動作しているのか、どのくらいのデータ量があるのか、ピーク時の処理負荷はどの程度か、他のシステムとどのように連携しているのかなど、あらゆる情報を収集します。
この分析をもとに、クラウド移行の目的と目標を明確にします。コスト削減が目的なのか、事業継続性の向上が目的なのか、システムの柔軟性向上が目的なのか、優先順位を決めます。また、移行の範囲も決定します。すべてのシステムを一度に移行するのか、段階的に移行するのか、どのシステムから着手するのかを検討します。リスクの少ないシステムから試験的に移行し、ノウハウを蓄積してから基幹系システムに取り組む方法が推奨されます。
クラウドサービスの選定と設計
次の段階は、クラウドサービスの選定とシステム設計です。市場には多数のクラウドサービスが存在し、それぞれ特徴や料金体系が異なります。自社の要件に最も適したサービスを選定するため、複数の候補を比較検討します。性能、可用性、セキュリティ、サポート体制、料金などを総合的に評価し、最適な事業者を選びます。
サービス選定後は、クラウド環境でのシステム設計を行います。オンプレミスの構成をそのままクラウドに移すのではなく、クラウドの特性を活かした最適な設計を行います。必要なサーバーの台数や性能、ストレージ容量、ネットワーク構成などを決定します。また、セキュリティ設計も重要で、アクセス制御、データ暗号化、監視体制などを計画します。設計段階で十分に検討することで、移行後の安定稼働を実現できます。
データ移行とシステムテスト
システム設計が完了したら、データ移行とテストの段階に入ります。データ移行は最も慎重を要する作業であり、業務への影響を最小限に抑えながら確実に実施する必要があります。まず、移行するデータの範囲と方法を決定します。データ量が膨大な場合は、物理メディアでの移送や専用回線の利用も検討します。
データ移行は、本番移行の前に複数回のリハーサルを実施します。テスト環境でデータ移行を行い、データの整合性を確認し、所要時間を測定します。問題があれば手順を修正し、再度リハーサルを行います。この繰り返しにより、本番移行の成功率を高めます。並行して、移行後のシステムが正常に動作するか、総合的なテストを実施します。機能テスト、性能テスト、セキュリティテストなど、あらゆる観点から検証します。
本番稼働して運用を安定化させる
最終段階は、本番稼働と運用の安定化です。綿密な移行計画に基づいて本番移行を実施します。多くの場合、業務への影響が少ない週末や夜間に移行作業を行います。移行作業中は、専門チームが待機し、問題が発生した場合に即座に対応できる体制を整えます。万が一、重大な問題が発生した場合に備えて、旧システムに戻す手順も準備しておきます。
本番稼働後は、システムの動作を注意深く監視します。性能に問題がないか、エラーが発生していないか、利用者から問題の報告がないかなど、あらゆる側面をチェックします。初期段階では予期しない問題が発生することもあるため、迅速に対応できる体制を維持します。数週間から数か月かけて運用を安定化させ、問題なく稼働することを確認できれば、クラウド移行プロジェクトは成功です。
まとめ
基幹系システムのクラウド移行は、初期投資の削減、運用保守の負担軽減、柔軟な拡張性、災害対策の強化、最新技術の活用といった多くのメリットをもたらします。一方で、セキュリティの懸念、カスタマイズの制約、移行時のリスクといったデメリットも存在します。これらを正しく理解し、適切に対処することが、成功するクラウド移行の鍵です。
移行にあたっては、既存システムとの連携確認、サービスレベル契約の明確化、ベンダーロックインのリスク考慮といった注意点を押さえる必要があります。また、現状分析、サービス選定、データ移行、本番稼働という段階的な手順を着実に進めることで、リスクを最小限に抑えられます。