
モダナイゼーションとDXの違いは、システムを現代化する手段か、企業そのものを変革する目的かという点にあります。どちらもレガシーシステムの刷新をきっかけに語られるため、社内では同じ意味で使われがちです。
言葉の整理がつかないまま投資判断を進めると、情報システム部門と経営層で議論がかみ合わなくなります。本記事では、モダナイゼーションとDXの違いを4つの視点で整理し、流通・小売業がどちらから着手すべきかを、システム刷新を検討するご担当者に向けて解説します。社内で方針をまとめる材料としてお使いください。
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目次
モダナイゼーションとDXの違い
モダナイゼーションは、老朽化したITシステムを最新の技術環境に適応させる取り組みを指します。長年蓄積したデータや業務ノウハウを引き継ぎながら、システムの構造を現代の技術水準に合わせて作り替える点が特徴です。
一方のDXについて、経済産業省はデジタルガバナンス・コードのなかで、企業がビジネス環境の変化に対応し、データとデジタル技術を活用して製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することと定義しています。対象はシステムにとどまらず、経営全体に及びます。
両者の関係を一言でまとめると、モダナイゼーションはDXを進めるための手段であり、DXは企業が目指す目的です。古いシステムを抱えたままでは新しいサービスを載せる場所がないため、多くの企業ではモダナイゼーションが先に必要になります。手法や進め方については、モダナイゼーションとは?意味をわかりやすく解説!手法と進め方の完全ガイドで詳しく取り上げています。
モダナイゼーションとDXを分ける4つの視点
モダナイゼーションとDXは、手段と目的という整理だけでは、自社の取り組みがどちらにあたるか判断しにくい場面もあります。4つの視点から違いを見ていきましょう。
| 視点 | モダナイゼーション | DX |
| 目的 | 技術的負債の解消とコスト削減 | 新たな価値の創出と競争優位の確立 |
| 対象範囲 | 既存のITシステム | 製品・サービス・組織・企業文化 |
| 成果の出方 | 短中期・数値で測りやすい | 中長期・段階的に現れる |
| ゴール設定 | 移行完了という終わりがある | 継続的に取り組む |
目的の違い
モダナイゼーションの目的は、老朽化したシステムが抱える技術的負債を取り除くことにあります。保守費用の高止まり、改修に時間がかかる状態、担当者しか仕様を知らない属人化を解消し、事業を支える基盤を安定させます。
DXの目的は、デジタル技術を使って新しい価値を生み出し、市場での優位性を築くことです。前者が現状の問題を取り除く守りの取り組みであるのに対し、後者は売上や顧客体験を伸ばす攻めの取り組みにあたります。たとえば在庫データの精度を上げるのがモダナイゼーション、そのデータをもとに需要を予測して発注を自動化するのがDXです。
対象範囲の違い
モダナイゼーションが対象とするのは、基幹システムや業務アプリケーションといった既存のITシステムです。刷新の範囲はシステムの内側に収まり、業務のやり方そのものは大きく変わらない場合もあります。
DXの対象は、システムの外側まで広がる点が違いです。製品やサービスの内容、組織の構成、意思決定のプロセス、企業文化までが変革の範囲に含まれます。そのため、情報システム部門だけで完結せず、経営層や事業部門を巻き込む体制が必要です。範囲の広さが、両者を分ける実務上のわかりやすい目安になります。
成果の出方の違い
モダナイゼーションの成果は、比較的短い期間で数値に表れます。サーバーの運用費が下がった、改修にかかる工数が減った、障害の発生件数が減ったといった形で、投資対効果を説明しやすい点も特徴です。
DXの成果は、すぐには見えません。新しいサービスの立ち上げや顧客との関係づくりは、数年単位で効果が現れるため、短期の数値だけで評価すると途中で打ち切られてしまいます。社内で予算を通す際は、この時間軸の違いをあらかじめ共有しておくと、議論がすれ違いにくくなります。
ゴール設定の違い
モダナイゼーションには終わりがあります。移行対象のシステムが新しい基盤で安定稼働すれば、そのプロジェクトは完了です。次のシステムに着手するとしても、区切りごとにゴールを設定できます。
DXには明確な終わりがありません。市場や顧客の要求は変わり続けるため、一度変革すれば終わりという性質のものではないためです。そのため、DXを進める企業では、改善を繰り返す体制を組織のなかに定着させる必要があります。プロジェクトとして扱うか、継続する活動として扱うかで、必要な人員配置も変わってきます。
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モダナイゼーションとDXはどちらから着手すべきか
モダナイゼーションとDXの両方を同時に進める体力がある企業は多くありません。着手の順番を決めるための判断材料を3つ紹介します。
- 現行システムが改修に耐えられるかを確認する
- IT予算の配分から判断する
- 業務プロセスの見直しと同時に進める
現行システムが改修に耐えられるかを確認する
まず、現在の基幹システムに新しい機能を追加できる状態かを確認しましょう。仕様書が残っておらず、改修のたびに影響範囲の調査から始まるようであれば、DXの施策を載せる前にモダナイゼーションが必要です。
判断の目安は、外部システムと連携できるかどうかです。APIやデータ連携の口が用意されていないシステムでは、新しいサービスを追加するたびに大がかりな改修が発生します。反対に、連携の仕組みが整っているなら、システムを作り替えずにDXの施策から着手する選択肢もあるはずです。自社がどちらの状態かは、ベンダーに連携の可否を確認してみてください。
IT予算の配分から判断する
次に、IT予算のうち保守運用に充てている割合を確認しましょう。既存システムの維持に予算の大半が消えている状態では、新しい取り組みに回す原資がありません。
経済産業省のDXレポートでは、多くの企業でIT予算の大部分が既存システムの維持管理に費やされている状況が指摘されています。保守の比率が高いほど、モダナイゼーションによって固定費を下げることが、DXへの投資余力を生む近道です。予算の内訳を年度ごとに並べると、どこに費用が集中しているかが見えてきます。
出典:ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開|経済産業省
業務プロセスの見直しと同時に進める
システムを入れ替えるタイミングでは、業務のやり方も一緒に見直しましょう。古いシステムに合わせて作られた手順が残っていると、せっかく刷新しても以前と同じ運用が続いてしまいます。
現行業務の棚卸しでは、システムの外で起きている作業まで拾ってください。表計算ソフトでの補完作業や紙の帳票が残っている工程は、モダナイゼーションとDXのどちらでも改善の対象になります。この作業を先に済ませておくと、順番の議論そのものが具体的になります。どちらから着手するにせよ、現状把握は共通の出発点です。
流通・小売業におけるモダナイゼーションとDXの具体像
抽象的な整理だけでは、自社の取り組みに当てはめにくい部分もあります。流通・小売業を例に、それぞれが何を指すのかを見ていきましょう。
- モダナイゼーションにあたる取り組み
- DXにあたる取り組み
- 両者をつなぐデータ連携の設計
モダナイゼーションにあたる取り組み
流通・小売業でモダナイゼーションにあたるのは、発注や仕入、在庫、買掛支払を担う基幹システムの刷新です。長年の改修で複雑化したシステムを、現在の技術基盤に合わせて作り替える工程です。
店舗で使う端末の刷新も範囲に含まれます。専用のハンディターミナルは画面が小さく表示できる情報が限られるため、タブレットを前提とした仕組みに変えると、紙の帳票と見比べる作業を減らせます。ほかにも、複数店舗の在庫を一元管理できるようにする、締め処理の時間を短縮するといった取り組みがモダナイゼーションにあたる範囲です。いずれも業務の中身を大きく変えず、動かす基盤を新しくする点で共通しています。
DXにあたる取り組み
DXにあたるのは、蓄積したデータを使って業務のやり方そのものを変える取り組みです。過去の販売実績や天候、イベント情報から需要を予測し、発注量を自動で決める仕組みが代表例にあたります。
発注業務は、担当者の経験に頼る作業から、システムが提示した数量を確認する作業へ変わります。担当者ごとに差が出ていた発注精度が揃い、欠品と廃棄の両方を減らせる点が、単なるシステム更新との違いです。
両者をつなぐデータ連携の設計
モダナイゼーションをDXにつなげるには、刷新の段階でデータ連携の設計を決めておきましょう。基幹システムを新しくしても、外部のシステムとデータをやり取りできなければ、需要予測や分析の仕組みを後から載せられません。
設計で確認したいのは、どのデータをどの頻度で渡せるかです。日次のバッチ処理で足りるのか、即時の連携が必要なのかによって、選ぶべきシステムの構造が変わります。発注、在庫、売上のデータを外部から参照できる形にしておくと、後から需要予測や倉庫管理の仕組みを追加しやすくなります。刷新の要件を固める段階で、将来つなぎたい仕組みを一覧にしておくと判断しやすくなるはずです。
モダナイゼーションをDXにつなげるためのポイント
モダナイゼーションでシステムを刷新するだけでなく、それによって新しい価値を創造し、市場での優位性を獲得するまでが真の目的です。DXを達成するために何をすべきかのポイントを解説します。
刷新して終わりにしないために、押さえておきたい点を3つ紹介します。
- 外部連携を前提とした構造にする
- 現場が使える操作性を要件に含める
- 段階的に範囲を広げるくじゅ
外部連携を前提とした構造にする
システムを選ぶ段階で、DXを見越して外部連携の可否を要件に入れましょう。連携できない仕組みを選ぶと、その後施策を追加するたびに個別の開発が発生し、費用と期間が膨らむからです。
連携性を確認するには、連携実績をよく確認しましょう。仮にカタログ上で連携可能と書いてあっても、実際に接続した実績がなければ想定外の工数が発生する可能性があります。
提案を受ける際にどの製品とどのような形で連携した実績があるのかを聞いて、将来自社が使うシステムや仕組みとの連携可能性を確認しましょう。
現場が使える操作性を要件に含める
システムの評価は機能一覧だけでなく、現場が使える操作性も比較して決めましょう。たとえ基盤が新しくなっても、日々操作する従業員にとって使いにくければ、システム自体が浸透しません。
とくに店舗ではパート、アルバイトを含む多くの従業員が端末に触れるため、選定段階で実機のデモや担当者に見てもらい、教育にどの程度の時間がかかるかを確かめましょう。
段階的に範囲を広げる
刷新は、一度にすべてを入れ替えないように進めましょう。範囲を広げすぎると、現場が新しい手順を覚えきれず、想定した効果が出ないまま運用が始まりかねません。
優先順位は、もっとも困っている業務から決めていきます。発注に時間がかかっているなら発注から、在庫が合わないなら在庫からと、効果を実感しやすい領域を先に手がけると社内の理解も得やすくなります。ひとつの範囲で成果が出れば、次の投資も通しやすいはずです。失敗の要因は基幹システムの入れ替え失敗事例と原因!企業が陥りがちな5つの落とし穴と対策でも取り上げています。
モダナイゼーションとDXの違いに関するよくある質問
モダナイゼーションとDXの違いについての質問をまとめました。
モダナイゼーションを飛ばしてDXだけ進められますか
現行システムの状態によります。外部システムとのデータ連携ができる仕組みであれば、既存システムを残したままDXの施策から着手する選択肢もあります。
一方、仕様がブラックボックス化して改修が難しい状態であれば、先に基盤を整えてください。まずは連携の可否をベンダーに確認してみましょう。
モダナイゼーションを実施すればDXを達成したことになりますか
モダナイゼーションは狭い意味でのシステム刷新であり、DXの前提条件です。そのため、モダナイゼーションの成功=DXの達成ではありません。
モダナイゼーションはDXの前提条件であり、その上でどのような価値を生み出すかを別途描く必要があります。刷新の計画段階で、何を実現したいのかを言語化しておきましょう。
中小企業はどちらを優先すべきですか
中小企業はモダナイゼーションを進めてシステムの保守コストを下げ、生産性の向上を優先すると良いでしょう。これにより生まれた余力をDXへ回せば、無駄なコストをかけずにDXを推進できます。
自社の予算配分やカットしたいコストを考えたうえで、着手の順番を考えましょう。
まとめ
モダナイゼーションとDXの違いは、目的、対象範囲、成果の出方、ゴール設定の4つの視点で整理できます。前者はシステムを現代化する手段、後者は企業を変革する目的にあたる取り組みです。
着手の順番は、現行システムが改修に耐えられるか、IT予算のうち保守運用が占める割合はどれくらいかという2点から判断してみてください。保守に予算の大半が消えている状態であれば、まず基盤を整えることが、DXへの投資余力を生む道につながります。
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