
メインフレームのAI活用とは、基幹業務を支えるメインフレームとAIを組み合わせる取り組みで、大きく2つの方向があります。メインフレーム上でAIを直接動かす方向と、AIの力でメインフレームの刷新や運用を支援する方向です。
2025年にはAI処理を前提に設計されたIBM z17が登場した一方、国内では富士通に続き日立もメインフレーム事業からの撤退を公表し、この技術を取り巻く環境は大きく動いています。
本記事では、メインフレームの基礎知識からAIが注目される背景、メインフレーム上でAIを動かす技術と刷新を支えるAIの最新動向まで、流通・小売業の情報システム部門や経営層に向けて解説します。自社の基幹システムの今後を考える際の参考にしてください。
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メインフレームとは
メインフレームとは、企業の膨大なデータ処理や基幹業務を支えるために使われる大型のコンピュータで、汎用機とも呼ばれています。銀行の勘定系システムやクレジットカード決済、航空会社の座席予約など、止まることが許されない社会インフラの中枢で長年稼働してきました。一般的なサーバーやPCとの違いを整理すると以下のようになります。
| 項目 | メインフレーム | 一般的なサーバー・PC |
| 主な役割 | 基幹業務の集中処理 | 個別業務の処理・分散処理 |
| 稼働の前提 | 24時間365日の連続稼働 | 用途に応じた稼働 |
| 処理の特性 | 大量の同時取引を高い処理性能で安定処理 | 汎用的な処理 |
| 設計思想 | ハードウェア・OS一体の専用設計 | 標準技術の組み合わせ |
メインフレームの強みは、圧倒的な信頼性・可用性と、大量の処理を同時にさばく処理性能、そして強固なセキュリティです。IBMによると、メインフレームは世界の本番環境のITワークロードの約70%を処理しているとされ、現在も企業システムの土台であり続けています。
一方で、専用設計であるがゆえにハードウェアやソフトウェアの維持費が高く、扱える技術者も限られるという構造的な課題を抱えています。強みと課題が表裏一体である点が、メインフレームを考えるうえでの出発点です。
メインフレームとAIが注目される背景
メインフレームとAIの組み合わせが注目される背景には、技術・人材・市場の3つの変化があります。ここでは代表的な3つを整理します。
- AI活用ニーズの高まりとメインフレームの再評価
- 2025年の崖とCOBOL技術者の不足
- 富士通・日立など国産メーカーの撤退
AI活用ニーズの高まりとメインフレームの再評価
AI活用ニーズの高まりは、メインフレームの価値を見直す動きに直結する変化です。IBMの調査機関(IBM Institute for Business Value)のレポートによると、世界の銀行上位50行のうち43行がメインフレームをコア・プラットフォームとして活用しており、ITエグゼクティブの79%がAI駆動型のイノベーションにメインフレームが欠かせない存在だと回答しています。
AIの応答速度やデータ移動の負担は、データの近くで処理できるかどうかに左右されます。基幹データが集中するメインフレームは、低遅延でAI推論を実行しやすく、機密データを外部へ移さずに済む点でも有利です。機密データを外部のクラウドへ移すリスクを避けられる点も、金融や流通のように機密性の高い業界で評価されています。
2025年の崖とCOBOL技術者の不足
2025年の崖とCOBOL技術者の不足も、AI活用を後押しする要因です。経済産業省がDXレポートで警鐘を鳴らしたとおり、老朽化した基幹システムの放置は競争力の低下に直結します。長年の改修で内部がブラックボックス化したメインフレームは、その典型例です。
加えて、開発の中心言語であるCOBOLを扱える技術者は高齢化が進み、退職とともに社内の知見が失われつつあります。人手だけでは維持も刷新も難しくなっているからこそ、コードの解析やドキュメント生成を担うAIに期待が集まっています。
富士通・日立など国産メーカーの撤退
富士通・日立など国産メーカーの撤退は、メインフレームを利用する企業に判断を迫る直接的な要因です。富士通は2022年2月、メインフレームの製造・販売を2030年度末に終了し、保守も2035年度末に終える方針を公表しました。
さらに日立も2026年5月、メインフレーム向けOS「VOS3」の販売を2027年11月、保守を2034年12月に終了すると発表しています。ハードウェアの製造から2017年に撤退していた日立がOSの提供も終えることで、国産メインフレームの選択肢は着実に狭まっています。移行先の考え方は「メインフレームのオープン化とは?クラウド移行の手法・メリット・AI活用例を解説」で解説しているので、あわせて参考にしてください。
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メインフレーム上でAIを動かす技術
メインフレーム上でAIを動かす技術は、この数年で急速に進化しています。ここでは代表的な3つの技術を紹介します。
- オンチップAI推論によるリアルタイム不正検知
- 生成AIに対応するアクセラレータとAIアシスタント
- AIOpsによる運用の高度化
オンチップAI推論によるリアルタイム不正検知
オンチップAI推論は、プロセッサに内蔵されたAIアクセラレータで、取引処理と同じ場所でAIの判定を実行する技術です。IBMは2022年のz16以降この仕組みを搭載し、大量の本番取引でも100%をリアルタイムでスコアリングできるとしています。2025年4月8日に発表されたIBM z17では、新しいTelum IIプロセッサの搭載でAI処理の性能がさらに向上しました。
IBMが公開している事例では、北米の大手銀行が不正検知モデルをメインフレームへ移した結果、リアルタイムで判定できる取引が20%から100%に広がり、毎秒15,000件の処理と2ミリ秒以内の応答を実現しています。判定の高速化により、取引が成立する前に不正を検出できるようになった点が大きな変化です。
生成AIに対応するアクセラレータとAIアシスタント
生成AIに対応するアクセラレータの登場で、LLM(大規模言語モデル)をメインフレーム上で直接動かす道も開けています。IBMは2025年10月28日、PCIeカード型のSpyre Acceleratorの提供を開始しました。機密データや業務ロジックをプラットフォームの外へ出すことなく、AIアシスタントやAIエージェントをz17上で実行できる設計です。
財務文書の要約や重要データの抽出、問い合わせ対応など、これまで外部のクラウドに頼っていた生成AIの用途を、強固なセキュリティ環境の内側で完結できる点が持ち味です。詳細はAI時代に向けて完全に設計された初のメインフレーム「IBM z17」(IBM公式)で確認できます。
AIOpsによる運用の高度化
AIOpsは、AIを使ってIT運用を自動化・最適化する取り組みで、メインフレームの運用にも広がっています。性能指標やログをAIが解析して異常をいち早く検知し、システム停止の予兆をつかんで予防保守につなげる使い方が代表的です。
将来のワークロードを予測して必要なリソースを事前に確保するなど、限られた運用人員でも安定稼働を保ちやすくなる点が評価されています。IBMがz17とあわせて発表したIBM Z Operations Uniteのように、複数のデータソースを統合してAIで分析する専用ソリューションも登場しました。
AIでメインフレームの刷新を支援する技術
AIによる刷新支援は、メインフレームからの移行を検討する企業にとって現実的な武器になりつつあります。ここでは代表的な3つの技術を紹介します。
- コード解析とドキュメントの自動生成
- COBOLからJavaへのAIコード変換
- 移行計画とテストの効率化
コード解析とドキュメントの自動生成
コード解析とドキュメントの自動生成は、刷新の最大の壁であるブラックボックス化への対策です。AIがソースコードや依存関係を自動でスキャンし、プログラム同士の関係を可視化したうえで、技術面・業務面のドキュメント生成までを自動でおこなう仕組みです。
たとえばAWSが提供するAWS Transformでは、AIエージェントがコードベースを分析して依存関係グラフを作成し、ビジネスロジックをわかりやすい言葉で抽出したうえで、生成されたドキュメントにチャット形式で質問できます。熟練者の退職で失われがちだった業務知識をシステムから取り戻せる点で、ナレッジ継承の課題にも効果を発揮します。
COBOLからJavaへのAIコード変換
COBOLからJavaへのAIコード変換は、生成AIの進化でもっとも注目されている領域です。IBMのwatsonx Code Assistant for Zは、生成AIで既存のCOBOLアプリケーションを分析・理解し、コードの説明やリファクタリング、Javaへの変換までを担うツールです。
AWS Transformもマルチエージェント型のAIでCOBOLをJavaへ、JCLをGroovyスクリプトへ変換し、従来数年かかっていたモダナイゼーションを数ヶ月に短縮できるとしています。完全自動とまではいかないものの、AIが変換の土台を作ることで、エンジニアは差分の修正と検証に集中できます。
出典:AWS Transform の AI エージェントを使って メインフレームモダナイゼーションジャーニーを加速する(AWS公式)
移行計画とテストの効率化
移行計画とテストの効率化も、AIが力を発揮する工程です。AIがコードやデータの依存関係と業務の優先度を踏まえて移行の順序を設計し、リスクを抑えた段階的な計画づくりを支援します。テスト工程では、移行前後の処理結果を突き合わせる検証の自動化により、膨大なリグレッションテストの負担を軽減できます。
もっとも、AIはあくまで移行を速く確実にするための手段です。手法の選び方や進め方の全体像は「メインフレームのマイグレーションとは?主な手法とAI活用、失敗しない進め方を解説」で整理しているので、計画を立てる際に役立ててください。
メインフレームのAI活用を進める際の注意点
メインフレームのAI活用を成功させるには、AIの限界を理解したうえで進めなければなりません。とくに押さえておきたい3つの注意点を解説します。
- AIの出力は人による検証を前提にする
- 機密データの取り扱いとガバナンスを整える
- 資産の棚卸しと体制づくりを省略しない
AIの出力は人による検証を前提にする
AIの出力は、人による検証を前提に扱わなければなりません。AIが変換したコードやドキュメントには誤りが混ざる可能性があり、基幹業務では小さな誤変換が売上や決済の障害に直結します。
移行前後で処理結果が一致するかを確認する機能同等性の検証は、AIを使う場合でも省略できません。AWS Transformが変換の各ステップに人の確認を組み込んでいるように、AIと人の役割分担を設計してから活用を始めましょう。
機密データの取り扱いとガバナンスを整える
機密データの取り扱いとガバナンスの整備も欠かせません。メインフレームには取引情報や顧客情報など、漏えいが許されないデータが集中しているため、AIの学習や分析にデータを使う際は、どの範囲を外部サービスへ渡してよいかの線引きが必要です。
データをプラットフォームの外へ出さずにAIを動かせる点はメインフレームの利点ですが、外部のAIサービスと併用する場合は、契約条件やデータの保管場所まで含めた管理体制を整えることが大切です。社内の規程や監査要件と照らし合わせながら進めてください。
資産の棚卸しと体制づくりを省略しない
資産の棚卸しと体制づくりは、AIを導入しても省略できない工程です。AIによる解析の精度は入力するコードや資料の網羅性に左右されるため、対象資産の全体像を把握しないまま進めると、把握していなかった連携システムの見落としが起こりえます。
AIはあくまで作業を加速する道具で、何を刷新し何を残すかを決めるのは自社です。基幹システム全般でのAI活用の始め方は「基幹システムにAIを組み合わせるには?できることや導入手順、注意点を解説」でも紹介しているので、あわせて参考にしてください。
まとめ
メインフレームは、銀行の勘定系や決済、予約システムなど社会インフラの中枢を支え続けてきた大型コンピュータです。AIとの関係では、z17に代表されるようにメインフレーム上でAIを直接動かす技術と、コード解析や変換によって刷新を支援するAIという2つの方向で活用が進んでいます。
一方で、富士通に続き日立もメインフレーム事業からの撤退を公表し、維持か刷新かの判断は先送りしにくい状況になりました。COBOL技術者の不足を踏まえると、AIの支援を受けながら早めに資産を可視化し、移行方針を固めていく進め方が現実的です。
AIは検証や棚卸しまで肩代わりする万能の道具ではありません。人とAIの役割分担を設計し、自社の業務特性に合った刷新計画へ落とし込みましょう。
弊社の流通業向け基幹システム「基幹船」は、700名以上のエンジニアによるを擁する開発体制を活かし、お客様の業務や運用に応じた柔軟なカスタマイズに対応し、予測型自動発注・データ分析システム「B-Luck」や倉庫管理システム「COOOLa」との連携にも対応しています。メインフレームからの基幹システム刷新を検討中の方は、お気軽にご相談ください。